ビロードのうさぎ
この ビロードでできた おもちゃのうさぎは たいへん 立派でした。
ふっくらしたからだに ピンクサテンの耳。 ヒイラギのえだといっしょに クリスマスのくつ下に
入ってるところは それは 素敵に見えました。
それから毎晩 うさぎは ぼうやと寝るようになりました。 初めのうちは 慣れなくて 苦しくて
けれど すぐにうさぎは ぼうやと寝るのが 好きになりました。
ぼうやは いつも優しくて、ふとんで“うさぎの穴”というのを 作ってくれます。
春になると 二人は 庭に出て 遊びました。 ぼうやと うさぎは いつもいっしょでした。
うさぎは だんだんと汚れて 汚くなってきました。
大人たちは 「この ボロうさぎ どこが いいんだろ・・・」 すると ぼうやが
「やめて!この子はおもちゃじゃないの ほんとうの うさぎなの」 うさぎは うれしくて 眠れませんでした。
「ぼく、 ぼく・・・・ ほんとうの うさぎに なったんだ!」
あるひ、いつものように 座ってると、不思議なものが 2ひき ビロードうさぎの前に あらわれました。
それは 自分によく似ていましたが、縫い目も見えないし、からだが 伸びたり 縮んだりして動きます。
「なんで じっとしてるんだい?いっしょに遊ぼうじゃないか」1ぴきが 言いました。
「ほら、きみも 踊れよ」 「飛んでみろよ」 ビロードうさぎは 泣きそうになりました。
どうしたら あんなふうに 踊れるのだろう・・・・・。
突然 野うさぎたちは 踊るのをやめて、ぐいと 顔を近づけました。
「こいつ においが へんだ。 うさぎじゃない ほんとうの うさぎじゃないんだ」
「ぼく ほんとうの うさぎだよ、ぼうやが そう 言ったもの」 その時 ぼうやの足音がしたので
2ひきのうさぎは あっという間に いなくなりました。
「行かないで。ぼく ほんとうの うさぎだよ、ねえったら・・・・・」
そんなある日 ぼうやが 病気になりました。 ビロードうさぎは 布団の中に 隠れるように ぼうやに くっついて いました。
うんざりするほど 長いときが過ぎて、やっと ぼうやの 熱は さがりました。
あかるく晴れた朝 部屋の窓は おおきく 開けられ、ぼうやは バルコニーへ 連れ出されました。
明日から 静養のため、海辺の家で 暮らすのです。 うさぎは ワクワクしました。
ぼうやと 海辺の家で 暮らせる。 その時 大人たちの声が・・・・
「部屋は全部 消毒しなさい。ぼうやが 触った 本やおもちゃは みんな 焼いてしまいなさい」
「この うさぎなんて どうしましょう」
「こりゃあ バイキンのかたまりだよ。すぐにでも 焼いてしまいなさい。」
こんなふうに 終わりがくるなんて うさぎは おもってもいませんでした。
明日になれば 自分は 燃やされてしまうのです。
「あんなに 楽しかったのに・・・・・」 うさぎは 胸が つぶれそうに なりました。
あんなに かわいがられて、ほんとうの うさぎになったのに、こんなふうに 終わりがくるなんて・・・・。
涙が ほんとうの涙が、うさぎのほほをつたい 地面に 落ちました。
すると 不思議なことが起こりました。 涙の落ちたところから 芽が出て、するすると伸びていき、
やがて花が開くと、中から 美しい妖精が 現れたのです。
「私は 子供べやの 妖精です。 愛された おもちゃが、子どもと お別れ することに なった時
私が 迎えに来て ほんとうのものに してあげるのです。」
「ぼく 今までも ほんとうの うさぎだったよ」
「ええ、ぼうやにとっては そうでしたよ。ほんとうに あなたを 愛してましたから。
でも これからは だれもが あなたを ほんとうの うさぎに見えるように してあげる・・・・」
そう言うと 妖精は、優しく うさぎの鼻に キスをしました。
「さぁ 今こそ あなたは ほんとうのものに なるのです」
秋がさり、冬がさり、春が来て・・・・季節は 巡って いきました。
あるとき ぼうやは 森で
こちらの方を じっと 見ている
ふしぎな野うさぎと であったことが あります。
マージュリィ・W・ビアンコ/原作
いかがでしたか?^^